商品コピーは、恋だって動かせる。

商品のキャッチコピーは、商品を売るためのものだと思っていませんか? 確かにその役割は大きいです。でも、商品は、どこかの誰かの日常のひとコマを、今よりも豊かにするために生まれてきたはずです。コピーがシーンを思い描かせ、恋する女の子の背中を、そっと押してくれることもあるのです。

こんにちは!「思いをカタチに」をテーマに、作り手の思いを届ける翻訳家、KEIKOです。

あの日、あの出来事で人生が変わった。

“人生”と言ってしまうと、ちょっと大袈裟かもしれないけど、大小あれど、ある時の出来事や出会いで、価値観や習慣が変わった。
そんな経験が誰にでもあるかと思います。

PR、ブランディング、販促など、時代の潮流のわりと先頭よりに長く身を置いて仕事をしていますが、
出会って以来10年、ずっと私史上1位の座を譲らない秀逸なコピーがあります。

『抱きしめられて、香る髪』

出会った時の衝撃を、今でも覚えています。
このコピーを見て商品を手に取り、その香りをまとって、勇気を出して一歩前に踏み出した恋する女子がきっといただろう。
コピーは、ブランドや商品に込められたメッセージや機能を伝えるものですが、それは同時に、人の心を動かし、行動に変化をもたらします。

今日は、この私の中の不動の1位であり続けるコピーについてご紹介したいと思います。

コピーが描く世界の中で「私」のシーンが動き出す

『抱きしめられて、香る髪』

たったの11文字。

わずかな文字が、商品のもたらす世界を伝えています。
このコピーは、ヘアフレグランススプレーに貼られたアテンションシールに書かれているものでした。
アテンションシールは、大きくても5cm四方程度の、商品に目をとめてもらい、特徴を伝えるためにアイキャッチとして商品に貼られているシールです。
このコピーを、恋する10代の女子が見た時、きっとこんなシーンを思い描いただろう。
―――――――――
大好きなあの人に抱きしめられて、
サラリと揺れた髪が、ふわっと香り立つ。
一瞬の二人だけの世界。
トクンっとひとつ、心臓が鳴る。
あぁ、お願い、このまま時間を止めて。。。
―――――――――

コピーが描く世界に、自分のシーンが映る。
通常の思考の軌跡は、①商品を見て、②もし自分が使ってみたら、③〇〇になるだろう。
といった流れになりますが、このコピーは違う。

手に取ったその商品が、一瞬にして、自分の使用シーンを描かせる。
「興味」から「自分事」へ、瞬きひとつで没入させる。
スゴイ。

そのコピーが恋の一歩を踏み出させた


当時、香水メーカーの広報をしていて、新商品のコピーを考えるのも私の仕事でした。
2日に1回は売り場に足を運び、10~20代の女性向けの商品のトレンドをチェックしていました。

香りは、自己演出のひとつであり、心のメンテナンスのアイテムでもあります。
勇気や自信をくれたり、緊張を和らげてくれたり。
香りは“次へのアクション”と“今”との間で、目に見えない「スターター」としての役割を担うことがあります。
香りの持つファクトのひとつです。

今回のコピーでは、「スターター」としてのファクトが、ユーザーに、恋の一歩を踏み出させるシーンを届けました。
この香りをまとって、大好きな彼に抱きしめられたい。
そう思い描き、わくわくしながらレジへ向かった女の子がいたはずです。
鏡の前で、髪を整えながら、そのシーンを思ったことでしょう。
そんな女の子たちの中には、いつもよりもちょっとだけ勇気を出した子がいるかもしれません。
もしかしたら、恋が叶った子も。

コピーがシーンをイメージさせ、
商品を手に取らせ、
勇気を与え、
次のアクションへとつながっていく。

どこかの恋のワンシーンは、ひとつの商品コピーから始まっている。
そんなことも、意外とたくさんあるやもしれません。

世界で一番短い詩よりも短いコピーから広がる世界

世界で一番短い詩と言われる日本の俳句。
五七五の17文字で綴られる世界は、まるで目の前にあるかのように、季節や情景が浮かんできます。

松尾芭蕉の有名な俳句、
「閑さや岩にしみ入蝉の声」の中には、夏の情景が広がります。
耳にこだまするような蝉の声、
木々に注ぐ日差し、揺れる影、たくさん見えてきます。

前述のコピー、『抱きしめられて、香る髪』は、
11文字から、世界が大きく広がり、その世界にいる自分の情動へと広がっていきます。

キャッチコピーの用途は様々ですが、
アテンションシールはスペースが小さいこともあり、
俳句よりも少ない文字数になることも多いです。
紡ぐ言葉次第で、思い描かせる世界を広げることができるのです

まとめ

言葉には、人を動かす力があります。
コピーは、美しい花がぎゅっと詰まったあのフラワーボックスに似ていると思います。
箱の中にちりばめられた色とりどりの花のように、
商品の価値や、開発の思い、ユーザーのハッピーがぎゅっと詰まっています。

製品やブランドを語る時、ユーザーはどんな気持ちでいるか、どんなシーンか、それが何をもたらすのか。
といったことに思いを馳せて、そのたったひとりのそのユーザーに届けるようにコピーを考えるのが、コピーを作る時の考え方です。
あのコピーのように、心に届いて、誰かの肩をそっと押せるような言葉を紡いで、作り手の思いをカタチにしていきたいと思う出会いでした。
あなたの心を動かしたのはどんなコピーですか?
そのコピーが、どんな世界を見せてくれたのでしょう?
そこにはきっと、作り手からのギフトが詰まっていますよ。