昔のWindowsを起動する時の音、何個覚えていますか?
Macユーザーの方には馴染みが薄いかもしれませんが、往年のWinユーザーの方にとっては、これからご紹介する起動音を聞いた瞬間に、
「さ、仕事しよ」
という気分になってしまうのでは?と思います。
少なくとも、私はそんなユーザーの内の一人で、梅干しを見ると条件反射的に口が酸っぱくなる感じと同じく、何か強力なスイッチのように体にこの音が刷り込まれています。
パソコンを毎日使う人にとって、起動音はその人の日常の一部となります。
起動時のたった数秒でどんなイメージを表現するか、この刹那の瞬間にも緻密なサウンドデザイン設計が施されているのです。
歴代のWindowsの起動音の中には、実は有名な大物アーティスト達が手掛けているものが多く、今回の記事ではその内3つをピックアップし、作曲者の音楽や背景とともにご紹介します。
目次
歴代Windowsの起動音、その作曲者と音楽について
Windows 95 – Brian Eno
最初はWindows 95の起動音の”The Microsoft Sound”です。
昔ながらのWinユーザーにとっては、懐かしすぎて胸アツのサウンドです。
こちら発売当時、私は小学生でしたが、夜な夜な父親のWin 95を開いてはRPGゲームのプレイにいそしんでいました。このサウンドを聴くと「今すぐに冒険に旅立ちたいあの気持ち」が今でも鮮明に蘇ります。
水滴が一滴水面に落ちて、優しく波紋が無限に広がっていくような感じの音で、ここから無限の扉を開いてどこへでも行けます・・的なイメージを私は感じています。
この ”The Microsoft Sound” は、Brian Eno(ブライアン・イーノ)が手掛けていて、Win起動音作者シリーズの中では最も著名なアーティストの一人だと思います。
イーノは、主に70~80年代に活躍したRoxy Music(ロキシー・ミュージック)というロックバンドのメンバーでしたが、音楽性の違いもあり同バンドを脱退、以降は従来の激しいロックらしいサウンドのそれとは、全く逆に向かうような方向性を突き詰めています。
フランスの作曲家エリック・サティに自身が影響を受けていることを、イーノは公言しています。サティには「家具の音楽」という、家具のようにそこにあり、日常生活の邪魔をせず、聴くことを目的としないコンセプトの音楽作品があります。
これに象徴されるように、イーノはより穏やかで何気なく、ただそこにあり環境に溶け込むような音楽を追求しました、これが後にアンビエント音楽が確立されていく礎となっています。
こちらイーノの代表作の一つ、”Ambient 1 / Music for Airports” はニューヨークの空港のために書かれた曲を収録したアルバムで、実際にBGMとして使用されています。空港内の慌ただしい動きに対して、決してそれを邪魔することなくふわふわと空気のように流れるこの曲、イーノの姿勢を表していて美しい作品です。因みにこれを流しながら寝るとなかなか気持ち良いので、就寝時にもおすすめです。
Windows Vista – Robert Flipp
次は95年から少し間が空きますが、Windows Vistaの起動音です。
この爽やかな目覚めを感じさせるような、シンプル且つ深みをもったサウンドは、Robert Flipp (ロバート・フリップ) が手掛けています。
フリップは、英国プログレッシブロックの代表的バンド、King Crimson (キング・クリムゾン) のメンバーで、ローリング・ストーン誌が選ぶ歴史上最も偉大な100人のギタリストにも選ばれる超大物であり、Win 95の作曲者のイーノとともに共作のアルバムを複数リリースもしていて二人の交友は深いです。
こちらは1973年のキング・クリムゾンのライブ映像です。全体は激しいサウンドとパフォーマンスなのですが、ロバート・フリップの演奏の特徴でもあるイスに座って黙々とプレイしている姿が際立ち、寡黙な音の職人のようで非常に格好良いです。
元々は、ロックでなくクラシックやジャズの演奏からスタートしているところも、このスタイルの確立に影響しているのかもしれません。
この凶暴な音を聴いた直後に、Windows Vista の起動音の「チャランチャラン♪ ファ~~」を聴くと作者が同一人物であることを疑いたくなりますが、イーノと同じく多くのアンビエント作品を残してきています。
現在、コロナの影響を受け、フリップは ”Music for Quiet Moments” というプロジェクトを始めました。2020年5月1日から約一年間に渡り、YouTubeチャンネルに自作のアンビエントミュージックを無料公開するという、太っ腹なコンテンツを提供しています。
また4月には、家の中で奥さんと一緒に踊って ”Happy Lockdown!” と自粛状況下で励ましの言葉をかける素敵な動画も投稿していて、70歳を超えた今も現役のギターヒーローですね。
Windows 98 – Ken Kato
最後はWindows 98の起動音です。
ヒュゥーー/ヴィヨーーン/シュワーーン/キィラーーン♪
こちら何とも未来的なサウンドで、この最新マシンを開けば何でも実現できるようになったんだ!という気分にさせてくれます。
この起動音、当時Microsoftの社員だったKen Katoによって手掛けられたものです。前述でご紹介した起動音の作者であるイーノやフリップとは違い、彼は著名なロックミュージシャンではないものの、メタルギアソリッドシリーズを始め、数多くの名作ゲームのサウンドを手掛けるサウンドデザイナーとして知られています。
彼がマイクロソフトに入社した当時、最初のサウンドの仕事は、Flight Simulatorという航空機操縦シュミレーションゲームソフトでした。これは70年代から長年続くシリーズで、80年代にマイクロソフトが販売権を取得し、目玉のゲームとして注力してバージョンアップ開発が続けられていました。ここで航空機の音の録音や編集などを担当、また世に出ることがなかったRPGゲームのサウンドなども担当し、それらが後のマイクロソフトのゲーム機、Xboxでのサウンドワークの基盤になったそうです。
後に彼がオーディオプロデュース総指揮を務めた、Xboxのゲームソフトである Halo 4 のサウンドトラックは、2012年に「過去最も売れたビデオゲームのサウンドトラック」としてビルボードに歴史的な記録を残しました。
基本的に歌詞のないゲームBGMのアルバムが、人気のポップシンガーやラッパーのアルバムと並んで高チャートランクインするのって、凄いですよね。
まとめ
今回は、Windowsの歴代起動音、その作曲者と関連の環境音楽についてのご紹介でした。
ノリノリに乗れるダンサブルな曲だったり、涙しながら歌えるバラードの他にも、「何気なく鳴っていて、でも環境に馴染んで心地良い」という音楽の楽しみ方があり、開祖でもあるイーノはアンビエントを「無視して良い音楽」と述べています。
無視できて、ふと気づくとそこにある、何か考え事をしたい時やボーっとしたい時、勉強したい時など、様々な場面でも活用できる実用的な音楽だと思います。
Spotifyなどでも、数々の名作が聞くことができます。
これまで触れてこなかった方は、環境音楽の深遠な世界に、ぜひ手を伸ばしてみてはいかがでしょうか。