観客の妄想力が試される映画【十二人の怒れる男】- 大切なことは映画が教えてくれる

密室劇/会話劇の金字塔映画・十二人の怒れる男。法廷ものなのに裁判のシーンが出てこない。事件現場も会話に出てくるだけ。陪審員たちは番号で呼ばれる。試されるのは我々観客の妄想力。人間の妄想力がいかに豊かで、同時にあいまいで危険をはらんでいるかを教えてくれる、この映画。今だからこそ観たい、オススメ映画です。

こんにちは! 元テレビマンで二児の母、じゅりちゃんです。

一つ前の記事で、イマジナリーラインを学ぶのに最高の映画ということで、「十二人の怒れる男」をご紹介しました。
実は、ご紹介しておきながら、この映画を最後に見たのは14年前…。

読者さんに勧めておきながら、これではイカンということで、改めて観賞すると、スゴイことに気づいちゃったんですよね。

これ、ものすごく秀逸な妄想ムービーだよねってことに。

あらすじだけさっくりなぞってから、この映画の魅力に迫りたいと思います。

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あらすじ:

1957年のアメリカ映画である「十二人の怒れる男」。
殺人事件の陪審員となった12人の男たちが、いよいよ有罪/無罪を決定するため、閉廷後に陪審員室に集められるところから話はスタート。

父親殺しの容疑をかけられた、スラム街で育った少年。
状況証拠や目撃者も揃っており、満場一致で有罪かと思われたが、1人だけ無罪を主張する男がいて…。

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それがこの方、陪審員No.8番(ヘンリー・フォンダ)。
めちゃくちゃ渋くてステキなお顔を眺めてから、本編へどうぞ!

陪審員8番役。ヘンリー・フォンダ氏。阿部寛さんを彷彿させます。IMDb:十二人の怒れる男から引用

工程の8割は妄想!妄想を制するものが映像を制す!

密室劇の金字塔・十二人の怒れる男

妄想で魅せてくれるスゴイ演出

この映画がスゴイと言われているポイント。

殺人事件の法廷ものでありながら、殺人も、裁判のシーンもないところ。
すべて12人の男たちのダイアローグ(会話劇)のみで進行し、少年の推定有罪がどんどん覆っていくところです。

 

妄想ポイント①:被告少年の真実を妄想

冒頭、裁判長が気だるそうに頬杖をつきながら、今後の陪審の流れを事務的に伝える法廷。
その後ゆっくりとフェードアウトしていく、少年の悲しい瞳。

有罪なら死刑。

彼は何を思っているのか。
罪を犯したことを後悔しているのかな。
それとも、冤罪なのかな。

その後、陪審員たちの会話の中で、彼がスラム育ちの不良少年ということが明かされていきます。
人種的にマイノリティ、スラムの不良となればもう…。

誰にも信じてもらえない。

諦めにも見える彼の表情から、様々なことを妄想します。

 

妄想ポイント②:事件の夜は観客の頭の中

少年の瞳からオープニングタイトルを経て、陪審員たちの会話で全てが進んでいきます。

凶器のナイフやアパートの見取り図は出てくるものの、事件の日の様子も全て会話。

間に鉄道が走るという、目撃者のアパートと彼のアパートも。
彼が父親を刺したというキッチンも。
その夜に行ったという映画館も。

そう、映像に出てこないのです。

映画でありながら、重要なシーンでありながら、観客一人ひとり、違うものを見ている(妄想している)。

あなたが描く少年のアパートと、私の頭の中にあるアパートは全く違うはず。

なんてドラマチック!!!!
映像と小説をかけ合わせたようなこの演出、ゾクゾクしませんか!?
私は身震いしました。

 

妄想ポイント③:陪審員の背景も妄想

陪審員たちは、1〜12までの与えられた番号で呼ばれ、名前は最後まで明かされません。

姿かたち、話し方からまず人物像を妄想。
そして、「自分は〇〇の仕事をしている」と言ったようなことが少しずつ明かされますが、全部はわかりません。

名前を伏せたのは、12人もいる登場人物をわかりやすくするためもあるでしょう。
ですが、必要最低限の情報のみを見せ、残りの背景は観客に妄想してもらう。

そうすることで、観客が「自分は〇番だ」と、参加しているように感じる効果もあるのかもしれません。

心憎いことに、最後、ヘンリー・フォンダ演じる8番と、9番の名前が明かされます。
そうすると急に人間味が増すんだよね。
名前って本当に面白い。

映像制作自体、8割が妄想

企画しながらエア撮影、撮影しながらエア編集

実は、映像制作自体、8割が妄想による作業。
常にできあがりを妄想しながら、それぞれの段階を行っていきます。

企画段階では、頭の中で撮影時に必要なものや最適なシチュエーションを想像しながら(=エア撮影)

撮影中は、頭の中でカットを割って組み立てています。撮りこぼしはないか、思ったものは撮れているか常に心配しています(=エア編集)
※エア〇〇は業界用語ではなく、私が勝手に名付けました。

テレビ時代、私はバラエティ番組をずっとやっていました。

とんでもないアドリブが起きたら、その一瞬は楽しいんですが、応用力のない私はすぐさま我に返り、カメラマンさんに目配せで(というか、必死過ぎて殺気立った目つきで)ちゃんと撮れているのか確認していました。

どんなディレクターも、何となく撮っているわけではなく、できあがりを想像しながら撮っていきます。

やっぱりとても難しい作業で、自分の頭の中に、ちゃんとした妄想ができあがってから撮らないと、後々いろいろと苦しみました。

どんなこともそうだと思いますが、ゴールからの逆算が大切ですよね。

しっかり準備したら、妄想しやすくなる

私は企画段階で、以下のようなことをします。

例えば、をテーマに撮る場合。

  • 図書館やインターネットで、犬の歴史、犬のコミュニケーションの仕方など、関連テーマを調べる。
  • 近所の犬を観察する。
  • 犬の一番の魅力はどこなのか、ひたすら考え、犬の何を推すか決める。
  • 犬の番組や萌え動画を観ながら、構成の参考にする。
  • 構成をWordで書く。
  • 画コンテ描くか、余裕がなければショットリストをつくる。

これくらい犬と同化して、自分は犬じゃないかと勘違いするくらいにのめり込めば、面白い画を撮るチャンスも増えるし、多少ロケが失敗しても、リカバリーする策を考えることができます。

映像制作というと、派手なイメージがあるかもしれませんが、いろんな映画や番組を観たり、本を読んだり、新しいガジェットを練習したり。

結構コツコツやったことが、あとで役に立つことが多いです。

十二人の怒れる男、その他の見どころ

撮影風景を妄想してワクワクできる 

その他の見どころについても触れておきましょう。
やっぱりなんと言っても、オープニングの長回しは外せません!

皆が陪審員室に入ってきてからの、7分近くの長回し。
1人でもミスったらやり直しという緊張感!

カメラの手前側を妄想してみましょう。

アメリカでは通常、監督はカメラを回さないんです。
撮影監督もしくは、カメラオペレーターがカメラを操作します。

  • 監督:画と演出に関わる全ての責任者。
  • 撮影監督:監督の演出を生かすために、光と画をつくる人。カメラを回す人もいるし、回さない人もいる。
  • カメラオペレーター:カメラを回さない撮影監督の場合、指示に従い、カメラを操作する人。

撮影監督がクレーンに乗りカメラオペレーティング。
撮影助手がピントと絞りを操作。

クレーンを動かす、クレーン・オペレーター。

演者の動きを促す助監督。

録音は、ブームマイクという、マイクがついた長い棒を7分以上持ち続けて、オペレーティングしたに違いありません。

こんなところでしょうか…。

おそらく、1957年では、チェック用の外部モニターもないんじゃないでしょうか。
この長回しを取り仕切った、シドニー・ルメット監督。
すごいです。
かっこいいなぁ。
監督が最強の妄想力の持ち主ですね!

と、そんな撮影風景を妄想してワクワクできるのも、この映画の素晴らしいところ。

まとめ

妄想をすると、いろんなことが見えてきます。

膨らみすぎた妄想を現実に落とし込むとき、無理だなどうすれば実現するかと頭を捻ったり。
良いと信じていたことが、よくよく考えるとそうではなかったり。

考え続けるという苦しい過程を経て、ようやく人に見せられるものにすることができるのかなと思います。

私がこの映画を観るキッカケは、イマジナリーラインの概念を学ぶためでした。
14年を経て見直すと、また新たな見方に気づくことができました。

若い頃より、多少は妄想力が上がったようです!

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