筆者は元々映像専攻で、学んでみたいと思った背景に、映像作家スパイク・ジョーンズの存在がありました。小学生の頃から、実家のケーブルテレビで映るMTVをひたすら観まくっていましたが、面白くて格好良い!と感じるミュージックビデオの多くは彼の作品でした。
彼はBeastie Boysなどの大物アーティストのミュージックビデオから、「マルコヴィッチの穴」や「her」などの大作映画まで幅広く名作を生み出していますが、その才能は数十秒~数分程度のテレビCMでも、遺憾なく発揮されています。
今回は、むしろ短尺だからこそ味が凝縮されているスパイク・ジョーンズ節たっぷりの、クリエイティブなCM作品の一部をご紹介します。
目次
壁を突き破るアイディアが詰まった、スパイクジョーンズのクリエイティブなCM3選
KENZO ”KENZO WORLD”
「KENZO」は70年代に日本で高田賢三氏が始めた、グローバルでの人気も知名度も非常に高い一大ファッションブランド、こちらはそんなKENZOの香水のCMです。
何やらゴージャスな式典に出席している、エレガントで気品漂う緑のドレスを着た女性。スピーチを聞きながら、周りに合わせて愛想笑いをしているようなシーンから始まります。
次第に彼女は取り繕うことに耐えられなくなり席を外し退出、大分くたびれた様子からカメラへ視線を向けます。観ている側としては、ぼーっと「さて、ここからどうなるかな?」という気持ちでいると、誰一人予想だにできなかった展開に突入。
音楽が鳴るやいなや、この美女が突然、リズムにあわせて変顔をマシンガンのように連発し出します。
「ええっ!なんでー!?」と心の中でツッコミを入れていると、白目を剥きながら両手を振って大暴れを始めます。足を天井まで蹴り上げ一歩ずつ進み建物内を闊歩、鏡の前でゴリラっぽくなってみたり、頭像を舐めたり、全く無関係の人をやっつけ、指からビームを放ち室内を破壊します。
流れからすると全く意味不明なのですが、これら一連の動きがダンスのように音楽とシンクロし、気品と野性味の絶妙なバランスを保ちつつ、全体通してスタイリッシュな世界観を作り出しています。
もし香水のCM制作の依頼が来ても普通、
「ドレスの女性に突然なんか憑依させて、ビームで室内ぶっ壊そう!」
という提案自体思いつかないですし、仮に出したらキレられそうですよね笑
この企画を考えた側と受けた側のクリエイティブさに、筆者は感銘を受けました。
おそらく「退屈から自分を解き放ってくれる香り」であろうと筆者は解釈し、普段香水を使いませんが、買ってみたくなりました。またインパクトが強すぎて香水のCMといえば、これしか思い浮かばなくなりましたね・・。
GAP “Pardon Our Dust”
あの有名なファッションブランド、GAPのCMです。
舞台はGAPの店内、男性が服を触っていると展示していた商品の山が崩れ、床にシャツを落っことしてしまいます。それを店員さんがギロリと見つめ、男性は少し気まずそうな顔。
「怒られるのかな?」と思って観ていると、何故かその店員もわざと手元のシャツの山を崩して、床へ落っことします。今度はそれを別の女性が見ていて、辺りを見回しながら、展示中のトルソーをそっと押し倒します。
ハッとそれを見つけた店長らしき男性が、トルソー押し倒し犯に足早に近づいていきます。「まあ、さすがに怒るよね」と思っていたら、何とその店長も早歩きのまま別のトルソーを押し倒しにいきます。
これを皮切りに皆で全部のシャツやレジスターを机から落とし、ポスターを破って展示テーブルを引っくり返し、棚にタックルし消化器を撒いたりの大騒ぎ。
「これGAPのCMだよね・・?」と疑いたくなるレベルの破壊っぷりですが、最終的には通りがかりのセレブらしき女性が、車で入口をぶち破り店内へ突っ込み、謎の男が店内の柱をチェーンソーで切り落として終わります。
自社店舗に対して破壊の限りを尽くしているこのCM、一体どういうつもりだろうと思いましたが、最後に“the all-new GAP is coming”と表示されます。実はこちら、レイアウト変更などの一部のGAP店舗リニューアルがあり、そのアナウンスの意味が込められたCMだそうです。
GAPなのにGAP店内をテロのような勢いで壊滅させるという表現で、今思いっきり変身中で真新しくなりますよ!というメッセージをパンチのある伝え方で打ち出しところが、非常に斬新でイケていると思います。
Softbank “Bodyguard”
上記の2つと異なり、こちらは珍しく物理的には何かを破壊しないCMです。
皆さんご存知のソフトバンク、この作品ではハリウッドの大スターのブラッド・ピットと、何と第67代横綱の武蔵丸が夢の共演を果たしています。全然共通点のなさそうなこの二人のキャスティングを思いついている時点で、もう名作の予感しかしませんね。
プラピは横綱武蔵丸のボディーガード役、まずは車から降りると傘を開き、無断撮影してくるカメラマンから武蔵丸を守ります。そして武蔵丸の雨水に濡れた肩を払い、着信した電話を取り次いだりと、忠実にボディーガードとしての仕事をこなしています。
そして二人で歩いていると、突然武蔵丸の雪駄の鼻緒が切れ、ぴえんと泣きそうな表情。その顔に「武蔵丸かわいい・・」とか思って観ていると、ブラピが大丈夫だよといった具合で、武蔵丸をお姫様抱っこして普通に歩き始める、という映像です。
仕事ができて、武蔵丸も余裕で持ち上げるブラピの安定感と信頼感、こんな感じがあなたに寄り添うソフトバンクのサービスです、というメッセージがビシバシ伝わる印象深い作品です。
キャスティングもさながら、武蔵丸のチャーミングな表情や、ブラピのプロフェッショナル感を全力で引き出す、スパイク・ジョーンズの手腕に感服です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?因みにブラピは、スパイク・ジョーンズが総監督を務めるMTVの”JACKASS”シリーズで、夜の街を全身着ぐるみで大暴れしたり、「突然目の前でブラピが拉致られたらドッキリ」にノリノリで参加したりと、羽目を外す仲間としても二人の交友関係は深く素敵です。
いずれの作品にも、既存の枠を破壊(概念的にも物理的にも)し、新しいものを生み出すクリエイティビティが、スパイク・ジョーンズの作品には共通して根底に流れていると筆者は思います。
何かを作る際、型にとらわれずに壁を突き破るマインドセットの参考として、彼の残した作品がヒントになれば嬉しいです。